第五回ゲスト 島田幹夫さん(喫茶店マスター)

MIKIO SHIMADA

わたし(秋山羊子)が大好きな人をお招きして、そのゲストの方にとっての「人生の一枚」をめぐって対談をするコーナーです。

第五回目にお招きする方は、島田幹夫さんです。
わたしが札幌に住んでいた頃よく通った喫茶店、LEMON HEARTのマスターです。 マスターは音楽ファンの鏡みたいな人で、いっぱいいろんな音楽を教えてもらいました。それは計り知れないほどわたしの財産になってます。 何と言ってもマスターが選んでかけてくれる音楽をお店で聴くのが最高なの。まるでちょっとした魔法。そうか、マスターって今考えてみたらすばらしいDJだったんだね。

島田幹夫さんが持ってきた一枚
JACOB do BANDOLIM - Jacob do Bandolim(邦題:黄金のショーロ)

JACOB do BANDOLIM - Jacob do Bandolim(邦題:黄金のショーロ)

羊子(以下、Yoko):聴いた瞬間身体が動きました。上へ上へ浮く感じ。こういうノリって日本人にはないですね。肩こりなさそうだなぁブラジル人は(笑)。マスターがこのアルバムを選んでくれた理由を教えてもらえますか?

島田幹夫さん(以下、Shimada):好きなアルバムやすばらしいアルバムは山ほどあるのですが、その中で世界中のいろいろな音楽へ目を向ける、耳を向けるかな?キッカケを作ってくれたアルバムがこれなのです。

Yoko:そうだったんですか。出会ったきっかけをもう少し具体的に教えてもらえますか?

Shimada:それまでジャズでもモダンなものを中心にしばらく聴いてきて、少し変化がほしい気分でいたときに「サライ」という雑誌の川本三郎さんのCD紹介コーナーで見つけた1枚です。

Yoko:そういえばレモンハートに「サライ」置いてありましたね。シブい雑誌ですよね。最初聴いたときの感想はどうでしたか?

Shimada:本当に目が覚める感じでした。うねるようなスイング感、めくるめくようなメロディー重視のアドリブ、力強いピッキングから感じとれる生命力、明るさと一体となってずっと流れる哀愁感。これらがまとまってアコースティックな音のかたまりとなって押しよせてくるのです。とても感動しました。

Yoko:メロディー重視のアドリブ、いいですね。聴いている方も一緒に感じ合える気がします。メロディーが甘美でうつくしくてほどよくやらしいの。そう、ショーロのことをよく知らないのですが、ショーロって何ですか?

Shimada:ショーロの発端は1840年代半ばからリオの街でダンス音楽として人気のあったポルカだそうで、それを新しい楽器編成、木製のフルート、カヴァッキーニョ、ギターのトリオで演奏したのが始まりみたいです。

Yoko:へぇ、ポルカが発端なんておもしろいです。だからかな聴いた瞬間身体が動いたのは。

Shimada:基本的にはインストゥルメンタルで、スウィング感があり、アドリブ重視といった点で「ブラジルのジャズ」と呼ばれます。「ショーロ」とは「ショラール」というポルトガル語で「泣く」という意味の動詞から派生した言葉のようです。

Yoko:そうですかーそれでどこか哀愁があるんですね。このジャコー・ド・バンドリンさんのことはわたしは知らなかったのですが、ショーロといえばこの人みたいに有名な方なのですよね?どんな人なんですか?

Shimada:当初メロディー楽器がフルートだったのでショーロと言えばジャコーというわけではなくて、ショーロのスーパースターはフルート奏者のピシンギーニャという人です。他にもたくさんいますが。それでショーロが1940〜50年代に他の新しい音楽に押され存続が危うくなったときに、ショーロを守りぬくべく気を吐いたのが天才バンドリン奏者のジャコー・ド・バンドリンなのです。

Yoko:へぇ。ジャコーさんの音楽って親しみやすいんだけど決して甘すぎないのがいいなって思いました。それにいさぎよくて無駄がない。はじけてる。そしてスタンダード。定番。そういう匂いがします。とってもショーロを愛してる、誇りに思ってる、そんなことを感じました。アルバムに統一感があって、一曲一曲それぞれにちゃんとカラーがあるんだけど、根っこは同じ。そういうのってわたしは好きです。

Shimada:「親しみやすいけど甘すぎない」というのが哀愁感だと思います。私もジャコーのショーロへの愛や誇りを強く感じました。そういうジャコーの熱い思いがこのアルバムの統一感を作り出しているのだと思います。

Yoko:うんうん。あとね、どこかクスって笑っちゃうような可笑しみみたいなのを感じました。なぜか小津安二郎監督の『東京物語』を思い出しました。この映画も可笑しみを感じます。そういえばマスターが教えてくれる音楽ってこういう可笑しみを感じる音楽が多い気がしました。それはわたしにとって新しい風が舞い込んでくる感覚です。だから楽しいです。

Shimada:秋山さんが感じた「可笑しみ」や「ほどよいやらしさ」というのいいですね。タンゴやフラメンコ、ファドなど、今なお人々に愛され続ける音楽は社会の底辺から生まれたそうで、言ってしまえばシャンソンやジャズもそうでショーロもまさにその一つなわけです。そしてそういう中での喜怒哀楽や人間模様やわいざつさなどが存分に盛り込まれて「可笑しみ」や「やらしさ」というものが表れ出てくるのだろうと思います。そのためにとても親しみのもてる人間味あふれる音楽になるのでしょう。こういう音楽が今とても好きなのです。

Yoko:わかります。生活に根ざしてる音楽っていいなーって思います。やっぱり音楽だって使われてなんぼだもの。そういえばマスターってギター好きですよね。

Shimada:ジャズでもギターものは比較的良く聴いていたのですが、このアルバムを聴いてから特に生ギター系の音色や音楽にはまっていったのですね。思いおこすと自分の学生時代はフォークソングが盛んだった頃で、ヘタながらもガットギターをつまびいて歌っていたのですが、ギターの弦をはじいて出る音のすばらしさに改めて気づかされて、それから生ギター系がらみの音楽をさがす旅に出て今なお続いています。スパニッシュギター、ウード、チャランゴ、カヴァッキーニョ、コラ、バラライカ、クラシックギター、スティールギター、ジプシーギター、スライドギター、マンドリン、バンジョー、…

Yoko:わーっ生ギターっていろいろあるんですねー。マスターはいっつも音楽へのアンテナを張っていますよね。常々感心しています。「サライ」のCD紹介の他に何か参考にしてるものがあったら教えてもらえますか?

Shimada:自分はたいしたアンテナは持っていません。もうもう旧式になってさびついてボロボロです。昔は「ラティーナ」とか「ミュージックマガジン」などの雑誌と通販用に送られてくるカタログなどで探していました。もうネット万能の時代ですが、自分のところにはパソコンがないので店のお客さんにたのんだりすることもあります。最近は本当に良かったなと思えるものが少なくなりました。もともとあまりない感性ですが、その感性がだいぶくだびれてきたのかな。音楽を聴き続けるのにも気力がいります。その気力が少しずつうすれてきたのかもしれませんが、まだゼロではありません。その時まで旅は続きます。

Yoko:ふふふ。マスターだったら大丈夫。ずっとずっと旅をつづけてくださいね。そしてそのおすそわけをください。

喫茶LEMON HEART:北海道札幌市北区北九条西3-1

(2008.5.22)

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